天の軌跡、星の奇跡  ・ 1



『 お守りします … とこしえに 』


私のつたない言葉を受けて、
あなたは、確かにそう言った。

遠い昔と同じように 触れた指先は温かく
春の夜空のような瞳で やさしく見つめてくれていた。



あなたが、そばにいてくれる。
その約束ひとつだけで、翼が広がるような気がした。



今までは 知らなかった。
飛び方はおろか、翼があることさえ。

でも これからは違う。
きっと、どこまでもいける。
想い続ける心こそが、全てを動かす翼になる。
あなたさえ、いてくれたら、
これから、ずっと、どこまでも。


喜びで満ちた私の目には 何も、見えていなかった。
どこまでも青い空の下、やわらかなあなたの笑顔にも 
深い影が伸びていたのに。







雲が、流れていく。
降り注ぐ陽射しを遮ったのも 束の間、
先を争うように 急ぎ足で通り過ぎる。
以前の私だったなら、行くあてのないあの雲でさえ
自由きままな生き物のようで、羨ましくてたまらなかった。

悠久の歴史を刻む 大いなる空と大地。
その深いふところにあまたの民族を抱く 我が祖国・中華連邦。
世界の大国でもあるこの国の頂点が ここ、朱禁城だ。

広大な敷地に鎮座する王宮は、幾重もの回廊に囲まれ
歴史に相応しい重厚さと あでやかさで、その権力を誇示している。
力を見せ付けているのは、王宮ばかりではない。
はるか遠く離れた場所から 城を取り巻く外壁は 終わりを知らないかのように
じっとその両手を広げ、厳かな沈黙を貫いていた。


巨大なこの箱庭の中では、頬を撫でてゆく風までも、
城で生まれたものに思えた。
自室の部屋にそよぐ空気は いつも穏やかに凪いでいて
広い国土の気配すら 届けてはくれない。
厳かにそびえ立つ山、一面の海、緑豊かな大地や、乾いた砂漠など、
外の世界は たくさんの顔を持つはずなのに。


ものごころつく頃から、この場所しか、私は知らない。
肥沃な大地はもとより、自らが統べる臣民達も
宮廷内では視界に入るはずもない。

大宦官から聞かされる外の様子は いつでも耳なじみが良くて
まるで最初から用意された おとぎ話のように思えた。
綺麗な嘘だ、と気付いていても頷くしかない、都合の良いおとぎ話。

首を横に振ってはいけない、それが聞く者の役目だと
いつの頃からか 教え込まれて。



満面の笑みで 偽りの言葉を吐く、大人たち。

作りものの中での暮らしは、現実といえるのだろうか。
繰り返されるたわごとに 真実はどれほどあるのだろう。



虚構におぼれそうになるたび、空を見上げた。
王宮の外、そして世界の隅々まで、
どこまでも 分け隔てなく続くもの。

嘘偽りのない空の下、目を閉じると、
あの日の夜空が 見える気がした。



遠い昔、指先を交わした。
闇よりも深い漆黒の髪、星空よりも明るい瞳。
幼い私の囚われの日々に 約束という光をくれた。

あの夜も、二度目に指をあわせた時も。


それなのに、私は。


「 天子様 … ? 」


穏やかな呼びかけは優しくて、短い中にも
私への配慮やいたわり、慈愛に満ち溢れていた。
名前を呼ばれただけなのに、背中から抱き締められたみたいに
暖かくて嬉しくて、とても幸せな気持ちになる。

だから、今日まで言えなかった。
もっと早く、告げるべきだと判っていたのに。


「 … 星刻 … 」


それだけで、精一杯だった。
見えないどこかを見つめたまま、振り向くことも出来ない。

でも。


「 はい、ここに。 」


いつだって そうだ。
無理に先を促したりは しない。
それも優しさだと 判るから。


「 … あの … ひとつだけ、聞いてもらえるだろうか … ? 」


これ以上、甘えてはいけない。


「 なんなりと、お申し付け下さい。 この星刻、天子様の為に 存在しておりますゆえ 」


あまりにも予想どうりの答えに
今度こそ、私の逃げ場はなくなった。
追い詰められていてもなお、どこか後ろ向きな自分に
情けなくて 泣きたくなるけど。


臆病な気持ちを 精一杯の覚悟でうずめて、
そっと 深呼吸する。

心細さは、消えない。
どうしたって、震える声。


それでも 言わなければ。
ようやく気付いた真実を 二度と手放したくはないから。
ゆっくりと振り返ると、跪く彼が そこにいる。


「 星刻 … あなたに、暇を 出そうと思う 」


絹糸の髪が、さらりと流れる。
悲しげに歪む夜の瞳が まっすぐ私を貫いた。






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すいません〜〜〜 やっちゃいました、星天です;
次で終りに … するつもりだったけど、無理っぽいデス。
あちこち破綻してますけど、つっこんだりしちゃイヤですよー。


'08 Jul. 3 up




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