光の、むこうに。



もしも、この世界に 永遠というものがあるとしたら
今、私はその中に閉じ込められているんじゃないか。


そんな、非現実的なことを考えながら、空中旗艦の片隅に
ひとりたたずむ少女がいた。
肩をすくめ小さくなっているのは、ついこの間まで 帝国宰相の直属で
高度な研究に明け暮れていた、ニーナ・アインシュタインだ。

望むような事態は いまだ訪れる気配もない。
ただ待つだけの時間は恐ろしいまでに長く、出口のない迷路の中に
閉じ込められているようだった。

不自然な揺れは収まらず、身体は なかば強制的に前のめりに傾いている。
艦内はきな臭い黒煙に侵食され、膨れ上がる焦りと不安をどうすることも出来ない。
新たな振動にバランスを崩して、思い切り倒れこんでしまう。


この艦は もうすぐ沈むのだ。


ここは、戦場。
現・ブリタニア皇帝 ルルーシュと、旧・皇帝派 シュナイゼル殿下が
世界の覇権をその手にするべく、空を血の色に染めあっている。
ルルーシュを擁する浮遊航空艦・アヴァロンは かつての主の指揮のもと、
黒の騎士団の攻撃を受け、海の藻屑になりかけていた。

それでも、私は逃げる訳には、いかない。
やるだけの事は やった。
後は 全てを見届けるだけ。

私がこの手で作りあげた 大量殺戮兵器・フレイアを
無意味なものにするために。

感情の赴くまま、闇雲に突き進んだ私の
歪んだ熱が生み出した、罪。


無様に傾いだ機体が、内側から揺れた。
おそらくはナイトメアが、ルルーシュの「蜃気楼」が出艦したのだろう。


“ ニーナ、君は 立派だった ”


それは 憎み続けた存在からの賛辞の言葉。
背中ごしに遠くなる彼の足音を聞きながら、私は唇を噛むしかなくて
歯痒いような、けれども何かを終わらせたような 不思議な気持ちで顔を上げた。
私は内なる声に従い、心のままに動いただけなのだ。


もしかしたら、もう逢うことはないかもしれない。
新たなフレイアは間違いなく 彼に狙いを定めるだろう。


地下に潜伏していた私を 空に引き摺りあげた、
第99代・ブリタニア皇帝 ルルーシュ。
アッシュフォード学園の副会長、
頭脳明晰にして情に厚い、生徒会の仲間。


そして、ゼロ。


ユーフェミア様を 手にかけた悪魔。


私自身の、一生あがなえない罪に
向き合う機会をくれた人。


私は、ゼロを許さない。
たとえどんなことがあっても。
だけどフレイアを生み出した私を
憎む人だっているはずなんだ。

私が ゼロを憎むように。


ひときわ大きな 振動が伝わる。

機体の外から、足元を伝うこれは。
普通の弾幕とは比べようもない、大きくて小刻みで長い、この震えは。


「 ユー、フェミア … さ ま … ふたり、が … 」


ルルーシュが、
そしてスザクが やり遂げたんだ。

理論上では可能であっても、検証するいとまもなかった。
理論だけじゃない、技術も完璧だったとしても、
瞬時にプログラムを組み上げ、それをフレイアに撃ち込むのは
限りなく不可能に近かった。

それを、彼らはやってのけた。
私の想いも、後悔も、抱き続けた憎しみさえも
すべてを光に変えてくれた。

フレイアの無力化に 成功したんだ …


張り詰めていた気持ちが ぷつん、と切れて
膝の力がぬけていく。


ずっと、顔を上げているつもりでいた。
記号が連なり、数字が織り成す結果こそが 正しさだと信じていた。
画面上にひろがる、シュミレーションの光を追い、
ユーフェミア様の輝きを追い、その微笑みが絶望に塗りつぶされても
敵を討つためだけに 立ち上がった。
ずっとずっと、前だけ見つめて生きてきた。

世界から目を背けているなんて、判らなかった。


地上に堕ちたフレイアが、イレブン政庁を飲みこんだ時、
総督である ナナちゃんの命を奪ったと知らされた時、
この手が作り上げたものの 本当の意味を理解した。


譲れない想いと 罪の意識のはざまで引き裂かれていた私にも
手を差し伸べてくれる人がいた。


まるで何もなかったかのように 接してくれたミレイちゃん。
友達だから、と言ってくれた リヴァル。

そして、ルルーシュ。


“ ゼロ・レクイエム ”


繰り返されたその言葉の本当の意味を、私は知らない。
ユーフェミアさまの名をクチにする彼の顔に浮かんだ、痛みと決意。
それだけは 嘘でも偽りでもないと思えた。


もしかしたら彼は、ゼロを抹殺するために、
無理矢理 皇帝になったのだろうか。
この戦いに勝ったとしても、世界の憎悪を全て背負って
ひっそりと消えてしまうような気がした。

人の意思を捻じ曲げる ギアスという力とともに。


目の前には うずくまる私の膝があって、
外で何が起きているのかは 判らない。
アヴァロンは、ゆったりと降下を続けていて
新しいフレイアが放たれた気配は ない。

ルルーシュは、スザクは
前へと 進んでいるのだろうか。


「 ユーフェミアさま … 」


世界が、また 変わろうとしています。
あの2人なら、きっと 新しい夜明けを作ってくれると思うんです。

だから、
彼らを 守ってあげてください。


『 ニーナ、あなたにあえて、良かったわ  』


どこか遠くで 懐かしい声が聞こえた気がした。

いつだってこの胸の奥に女神のような笑顔が 揺らめいている。
手を触れることは出来なくても、その記憶をなぞるだけで、あたたかなものに包まれていく。

光はいつもここにあったと、ようやく私は理解した。




fin.


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R2・24話行間 ねつぞう〜;
ニーナさん、最初は地味でホラーな子だと思ってましたけど
ちゃんと役割を果たしてましたねー。

さぁ 次はいよいよ最終回、
見たいような、見たくないような…


'08 Sep. 23 up





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