Always and forever.〜 ナイトメア・オブ・ナナリー 



「 はいっ! 今から書類と、にらめっこです! 」


その日も終わりに近づく頃、ユーフェミア陛下は笑顔でデスクにむかわれた。


「 退屈かもしれないけど、もう少しだけ 見守っていてくださいね。 」


そんな風におどけてみせるのも、自分への心配を軽くしたいからなのだろう。
主のそんなやさしさを垣間見るたび、スザクはどこか歯がゆさのようなものを覚えた。

何ひとつ 代わりになれないのは、判っている。
あなたの背負う名前も、その血筋と気高さゆえに選んだ、
これから行く道の険しさも。


聖エデンバイタル教国をたちあげ、大いなる脅威となった前皇帝・シャルルの前に、
一度は手を取り合ったはずの世界は、再び ほころびはじめていた。
穏やかな明日を目指して立ち上がったこの方が、お互いの利権ばかりを叫ぶ
各国の非難をあびるいわれは 何もないはずだ…。


関係各省庁との会議や軍議、他国首脳との晩餐会と 大国の皇帝らしく
分刻みのスケジュールをこなした、今日一日の締めくくりだ。
相当 疲れているだろうに、そんな気配は微塵もみせず、
書類の一枚一枚にきちんと目を通して、自らの名を記していく。

神聖ブリタニア帝国 第99代皇帝
ユーフェミア・リ・ブリタニア、と。

羽根ペンの先が小刻みに揺れて、長い髪がさらりとこぼれる。
気がつけば見つめてしまう、淡い花の色の髪。


『 あなたが、枢木スザクですね。

  はじめまして、私、ユーフェミア・リ・ブリタニアです。 』


初めて逢った日、笑顔でさしのべられた手のひらに とまどった。
兄であるシュナイゼル殿下の推薦とはいえ、 皇女殿下が一臣下に
(しかも イレブンという名の名誉ブリタニア人だ) 握手を求めるなんて、常識ではありえない。
コーネリア殿下が思い切り眉をひそめても、目の前の姫君は笑顔のまま、
意に介するそぶりもない。


この方は、誰も差別しないのだ。


そう思った瞬間、跪いていていた。
驚いて止まったままの手を取り、たおやかな指先にくちづけた時、
春に咲き誇る祖国の花を思い出した。
薄紅色の髪、柔らかな笑顔は、誰もが振り向かずにはいられない、
美しく春をうたう 花…。


んー…と 低いうめき声に、我にかえった。
ごめんなさい、ちょっとだけ、と しかめつらで伸びをして、
デスクに前のめりになる姿は まるで猫のように愛らしくて 思わず頬が緩んだ。


皇帝とはいえ、まだ16歳の少女なのだ。
自室だからこそ、スザクの前だからこそ、見せてくれる本当の姿。

もっと、見たい。
もっと、自由に笑ってほしい。
もっと、もっと …


ふいに 部屋の明かりが消えた。


「 … 陛下!? 」


身構えたのは一瞬だけ、くすりとこぼれた小さな声に緊張が解けた。
星空が見たくて、の言葉に 衣擦れの音が重なりあう。
長いマントを優雅にさばいて窓辺に立つ後姿が 夜の色に染まる。


「 星は、何一つ 変わらないのに … 」


どこか淋しげに聞こえて はっとした。
彼方を見詰める、表情は見えない。
華奢な身体がそのまま闇に熔けてしまいそうで 不安になる。


「 子供の頃ね、大好きな人たちと一緒に よく星を見上げたの。 

  空いっぱいの光が今にも降り注いでくるようで、とても綺麗だった。 」


陛下、と呼びかけようとした声を 飲み込んだ。
今 語られているのは 『 皇女殿下 』 の頃の、大切な思い出。


「 戻れない事は、わかっています。 私はもう 無力な姫君じゃない。

  だからこそ、みんなが優しい気持ちになれる世界を つくらなきゃ … 」


それは夢だ、と言われても。
キレイゴトだと あしらわれても。


窓ガラスの上で青白い手が、震えている。
縮こまってゆく細い指を 取り上げて、包み込む。


「 … 冷えてしまいますよ。 」


この方を  冷たくするものは許せない。
夜の冷気も、身勝手に振舞うばかりの世界も、何もかも。

ようやくこちらを見上げた大きな瞳が、潤んでいた。


「 スザク …  」


それが、精一杯。
途切れた言葉は 零れ落ちる涙に変わった。

なぜ、あなたが悲しまなければいけないんだろう。
どうして、あなたが悲しいと この胸が締め付けられるんだろう。

目の前で泣いているのは ブリタニアという大国を統べる皇帝で、
ただ一人と決めた主で、まっさらな心をもつ少女で … 


「 … ユーフェミア、さま 」


心も 言葉も追いつかないまま、溢れる雫を指先でぬぐう。
いつものように微笑もうとするくちびるが いじらしい。

無理しなくて、いいんだ。
ここでは、
自分の前でだけは。


ぎこちない微笑みは そのまま熔けて流れ落ちた。
ゆっくりともたれかかる軽やかな重みを 受け止める。
肩口に埋もれたやわらかな髪が、首筋を、頬をくすぐっている。
消え入るような小さな声が “ そばにいて ” 、とささやいた。


「 … 命令じゃ ない、から … 私の勝手な お願い だから … 」


その刹那、ぐるぐると回り続ける心が はじけ飛んだ。
軽く添えていただけの腕を 思い切り狭めて抱きしめる。

離れられるはずが、ない。
吐息も 涙声すらも 全部とじこめてしまいたい。
あなただけを守りたくて、あなただけに求めて欲しくて、もどかしくて、
こんなにも、そばにいたいと願っている。

理想も、夢も あなたの傍でなければ、ただの虚しい絵空事だ。


「 自分は、あなただけの騎士です。

  いつまでも、お傍でお守りします。 誰に咎められようとも ずっと。 」


背中にまわる手のひらが そっと引き寄せてくれている。
触れ合うからこそ伝わるぬくもりに 心まで満たされていくようだ。


「 出すぎた願いでも … 許してくださいますか。 」


頷いてくれたことが、返事。

胸元でくぐもる自分の名前が とても優しく繰り返される。
高鳴る鼓動に重なるその響きを聞きながら、今、自分がここにいること、
その為に歩いてきたのだと、全てが許されているように思えて、
スザクはそっと目を閉じた。


“ あいかわらず、お堅いヤツだ ”


そう言って笑う懐かしい声を
どこか遠くで 聞いた気がした。




fin.


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『 ナイトメア・オブ・ナナリー 』で ねつぞうー。
騎士姫どころか 騎士×女帝になってて
(踏み越えられないけど、惹かれる度数・大幅UPだ!)
しかもちゃんとユフィが生きてて 最後には丸く
(いえ、世界情勢的には 全然丸くないけど;)おさまる予感を
におわせてくれて、スザユフィ的には とても嬉しい漫画でした。

それにしても久々すぎて いろいろすっかり忘れてます♪
忘れるのって、簡単なのねー;


ps.UP 4時間後、若干手直しを入れました;
大変失礼致しました(深々と頭を下げております)

'09 Jul.26 up




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