I'm not dreaming.



そのたおやかな指先は あまりにも華奢で、はかなげだった。
ありったけの力と心で握り締めているはずなのに、応えてくれる気配は ない。

今更のように感じているのは、こんなにも僕は、
君を 必要としてるってこと。
それなのに、この別れが避けられないのも どこかで もう判っていて
涙が溢れて 止まらなかった。



“ あぁ … スザ ク …   あなたに、 逢え  て … ”



僕を映す瞳に、ゆっくりと まぶたが降りて
青白い頬が 力なく傾いていく。




ユフィ


ユフィ、 ユフィ  … !



愛しい名前を呼ぶ、自分の声で 目が覚めた。
空に向かって伸ばした腕が 滲んで見えた。




「 ゆ、め … ? 」



本当に 涙を流していた。
やけに汗をかいたせいで、かすかに寒気が走り抜ける。

視界をずらすと、外はまだ鈍い色をしていた。
夜と朝の間で、ひとつ深い息を吐き、全身の緊張をほぐした。
二度、三度と手のひらを動かし、感覚を確かめる。


どうしようもない無力感、揺るぎなく立ちはだかる絶望、
押し寄せる悲しみや 孤独、そして湧き上がるどす黒い感情。
そんな見えない揺らぎさえも、まだ はっきりと覚えている。

随分と リアルな夢だった。



愛する人を看取るなんて、縁起でもない。
よりによってこんな日に。

今すぐ、逢いに行きたかった。
眠る君を揺さぶり起こして、不吉な余韻を ただの笑い話に変えたかった。
でも、それは 出来ない相談だ。



もうひとつ、深呼吸をして 閉じたカーテンの向こうを睨みつける。
まだ重く残る別れのヴィジョンを押しつぶしてしまいたくて、君との思い出をなぞっていた。



初めて逢った時、僕らはまだ ほんの子供だった。

ニッポンが絶対的埋蔵量を有する 特殊資源・サクラダイト。
どの国もこの特別な物質を 他国より有利に輸出してもらうべく
媚へつらい、首相の息子である僕のご機嫌取りにも 気を使うようになっていた。
大使や大統領からのよく判らない贈り物、外遊先でのイベント、
有力者の子供達との 最初から決められたような会話も、同じようなものばかりで
子供ごころにも 本当につまらないものだった。


ただひとつ、違うと思えたのは ブリタニアだった。
同い年だから、と 引き合わされた皇子・ルルーシュは どこか冷めていて
だけど家族のこととなると、とても熱い部分があって、
ぜんぜん自分と違うのに 不思議なほど 気が合った。

彼の妹、ナナリーとも すぐに仲良くなれた。
大きな目を絶えずくるくる動かす、素直で元気な女の子だ。
広大なアリエス宮の庭を 所狭しと走り回った。
一日中動き回っても、ちっとも疲れていない気がした。

いつのまにか、見慣れない建物にいた。
散々遊んで動いたせいで、スザクには もうその場所が
庭のどのあたりになるのか 見当もつかなかった。



『  あら、お兄様 … 、あれ  …  』

『『  え … ? 』』



ルルーシュと2人、ナナリーが 指差す方に目をやると 立派な菩提樹が風に枝葉を揺らせている。
生い茂る緑の隙間から 桜の花が零れ落ちた。



『 … ! 』



ナナリーが 小さな悲鳴をあげて、少しだけ涙ぐんでいた。
ルルーシュが溜息をつきながら、無事を喜んでくれていた。
遠巻きに見守る護衛が、何も出来なかった責を問われて、後日 首を飛ばされた。

後で聞いた話では、周りはそんな感じだったとか。
あたりを見回す余裕なんて、これっぽっちもなかったんだ。

腕の中に、天使がいたから。




『 ごめんなさい、 下に人がいるとは 思わなくて … 助けてくれて、ありがとう  』



桃色の長い髪、バラ色のくちびる、白いドレス。
感謝の言葉の後もまだ 僕の首筋を抱き締めているのは、とても綺麗な女の子だった。
やれやれ、と 判りやすい溜息をついたのは、ルルーシュだ。



『 ユフィ、おまえ … 今日は どこぞの大使の息子と観劇の予定だっただろ? 』

『 その子が熱を出したとかで、中止になったの。 だからルルーシュと遊ぼうと思って 抜け出してみたんだけど  』



落ちちゃったの、と笑った少女は ルルーシュに逢おうとしていたらしい。
天使の笑顔は 彼に向けて浮かんだもの。
そう思った途端、なんだかとてもイヤな気持ちになったことを覚えている。
君を受け止めて、今 こうして支えているのは 僕なのに。

いつの間にか細い腰に添えた手に チカラが入っていたらしい。
くすぐったそうに肩をすくめて、君が 柔らかく微笑んだ。






多分、それが、はじめての恋。
そして、はじめての嫉妬だろう。

可憐な姿も、驚くほど似ている価値観も
すべてに惹きよせられるように
あの日から、僕は君に 恋をしている。


メールや回線ごしの 他愛ないやり取り、理想を語る表情、
再会した日、些細なことで、少しだけ尖らせた くちびる。
僕にとっては親友の、兄の名をクチにする時の
どこか懐かしがるような瞳、こらえきれず抱き締めた瞬間、
心が通じ合った涙が 色鮮やかに通り過ぎる。


君が、僕だけの君になる日を、
ずっとずっと 待ち焦がれていた。



優れた技術力を持つ 大国の皇女と、
絶対的な資源を有する 島国の首相の息子。

皮肉を好むオトナ達は 冷ややかに眺めているのだろう。
二国間の友好とか、ひいては世界平和の為とか、
優先されるべき建前は、今となっては どうでもいい。
周りにどう思われようと、僕の気持ちは決まっている。


まだ どこかザラついている、あの夢の悲しい結末を 正夢になどしないよう、
今まで以上に 彼女を愛していくだけなのだ。
不安な未来など、ありはしない。
君が 側にいてくれるなら。


生涯をかけて 守るべき人、
溢れるような 笑顔の記憶が胸の奥をあたためる。


そして、もうすぐ 逢えるはずの
君の 純白のドレス姿。




「 スザク様、お時間です。 」




荘厳なステンドグラスに向かい、まっすぐに伸びた 赤い道を踏みしめる。
平静を装いつつ 苦虫を噛み潰したように 眉を寄せるコーネリア様、
嬉しそうに瞳を輝かせたナナリーが 同時に見えた。

そしてその側で、いつもどうり、端正な表情を崩さないルルーシュと そっと目線を交わす。
安心させるつもりで 少しだけ頷いてみる。
振り返れば、もしかしたら、と 思ったこともあったのだ。


もしかしたら、ルルーシュも 彼女のことを。

触れてはいけないような気がして 一度もクチにはしなかったけど。



大丈夫、
君の大切な義妹を 泣かせるようなことは、絶対に しない。

ましてや、僕が 看取ることなど。



背中ごしに 重々しく 運命の扉が開く。
一筋の光が 僕の影を前に伸ばした。

拍手の中で振り向く先には シュナイゼル殿下に手を引かれた 愛する人が立っている。
白いドレスに 桜色の髪が映えて、いつもにも増して美しい。
僕を見つめて微笑む姿は 生きる喜びに溢れ、幸せそうに輝いている。

一歩、また一歩と 君が僕に近付いてくる。



もうすぐ僕は 君の手を取り、2人は永遠の誓いを交わす。

柔らかいアメジストの瞳は、優しげに愛を語りかける。
この清らかな宝石が、涙に曇らないように
悲しい別れの場面など 永遠に見ないようにと祈る。




生まれついた時から 政治の中枢にいることを 決められた身だ。
いつの間にか 心のままに生きることを諦めていた。
心から愛し、愛されるなど、絵空事だと思っていた。
ありえない、と思いながらもずっと、願い続けていた。

本当に引き寄せられる出会いを
大切な人の祝福のもと、愛する人を、望む未来を、
すべてを この手にすることを。
この願いが叶うのなら、次の夢など 必要ない。


ゆるやかに伸ばされた手を 僕はそっと受け止める。
手にしたはずの指先は、あまりにも華奢で 儚げだ。
それでも、今、手のひらにあるこの感覚は 夢じゃない。



「 あぁ、スザク … あなたに、あえて … 」



可愛らしくはにかむ君が 僕だけのために微笑んだ。




fin.


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’07 スザユフィ祭り協賛作品。
タイトルは エリーシャ・ラヴァーンの曲より 勝手に頂いちゃいました。
スザユフィ・パラレル もどき … です;
夢オチなんてやらかして すんません;
スザユフィ・大好きなんで 是非 幸せになってほしいかな、と;


'07 Jun. 14 up




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