Softly.



仕方がないって思っていた。

気持ちが理屈に追いつかなくても、納得しなきゃいけなかった。
信じるものの為に、この身を削って切り捨てるのは 当たり前の行為だし
自分を納得させるのは、得意なんだと思っていた。

それなのに、ヘンなんだ。

身体の芯が冷たくて、ずしりと重たい感じがする。
胸に当てた手のひらには、ちゃんと鼓動が伝わっていて
何でもないって判ってるのに、冷たい風が吹き抜けていく。


どうかしてる。
こんなに からっぽになるなんて。
あの人という存在が こんなに、大きかったなんて。

失くしてから、気付くなんて。







高速で上空を移動中にも関わらず、
最新鋭機アヴァロンの内部は うるさいほどの沈黙で溢れていた。
出撃を待つ格納庫に、ランスロットとふたりきり、
晴れて特派に戻ったスザクは ぼんやりと座り込んでいた。
久しぶりに取り出した時計は、相変わらず黙ったままだ。

自分を戒めるための、過去。
それは父の形見であり、僕の罪の象徴だった。
決して 忘れてはいけない、目を逸らしてはいけない事実だ。

わかっているはずなのに、心は 時計を通り過ぎる。
動かない文字盤を見つめていても、いつしか あの人を思っていた。
出自など関係なく 僕を認めてくれた皇女殿下。


『 重荷だったでしょうか? … 騎士に、任じたこと …   』



そうやって、あなたが 自分を責めるから。

あなたが、あまりにも優しいから
僕が側にいちゃ いけないんだ。
過去を閉じ込めて生きる醜い自分、それを知りながら
正しさしか目指せない、不器用な自分は あなたから離れた方がいい …


手のひらにある時計より、重たく感じるのは、なんだろう?
握り締めている、金属の塊とは違う、
身体を押しつぶすほど重い、それは からっぽの喪失感、
失くしてしまったものへの 未練だ。

あの人のため、と決めた決意を、淋しく思う自分が いる。



問われた罪状に、心あたりはなかった。
誤解だ、と すぐに否定出来るはずだった。

ただでさえ僕は他の騎士より 問題視される傾向がある。
クチに出さなくても、日々そのことで、胸を痛めている主に
心配ない、と 笑顔で振り向くつもりでいた。



『 オレは、生きなきゃならないんだ … ! 』


機械を通した自分の声は、あまりにも聞きなれなくて
知らない誰かのような気がした。
本当に他人のものなら、どんなに良かったことだろう。
記憶にはなくても、その記録は確かに残っていた。

確かに、僕、 枢木スザクの声だった。
死んでもいいという願いさえ、偽りだったと言うのだろうか。
自分の浅ましさを 見せつけられたような気がした。



どんな結果になったとしても、きっとあなたは 微笑むだろう。
僕を責めることは、しないだろう。
そのかわり、自分を責めるんだ。


僕のために曇る瞳を思うだけで 耐えられなかった。
騎士になることを決めたのは、そんな姿を見る為じゃない。

これ以上、側にいてはいけない。


『 自分には、あなたの騎士たる資格がありません   』



言葉にして投げつけた 僕自身の罪も、あなたは 黙って飲み込んでいた。
無理矢理 勲章を押し付けた手は、直接触れたあの人の手は、柔らかくて暖かかった。
何か言いかけたくちびるに気付かないフリをして、背中を向けた。

忙しすぎた日常が、いつもの日々に戻るだけだ。
ただ、それだけのことなんだ …





握り締めた時計を見ないように 目を閉じる。
まぶたの裏に優しい笑顔が 浮かばないように、きつく閉じる。
僕だけは、僕を許しちゃいけない。
罪と偽りと、浅ましさの他に 淋しさをひとつ、抱えるだけだ。


全部を 受け入れたつもりで、戦場にいるはずだった。
追い詰められる緊張感に 終りを予感していたのに。



『 枢木 スザク ! 』


もう二度と聞けないと思っていた、僕を呼ぶ 声。


『 … 私を 好きになりなさい ! 』

「 はい …  えっ … ? 」


目の前には銃口が並んで、一歩間違えば 命はない。
そんな切羽詰った空気も 全部 吹き飛ばされてしまった。


『 そのかわり、私が あなたを大好きになります ! 』


まっすぐすぎる 頑なな僕も
ネコに噛まれる ダメな僕も

過去も、
未来の僕も、全部。


『 だから、自分を嫌わないで … ! 』


全てを 受け入れて欲しい、って
願うだけでも 許して欲しいと思っていたこと、
どうして 判ってしまったんだ?


「 あなたって ひとは … ! 」


いつも、あなたから 始まっていた。
僕自身が閉じた扉を、いつもあなたが叩いてくれた。
その音色に導かれて、僕は今日まで歩いて来たんだ。
あなたの、「生きて」 という言葉が、
差し出されたエナジー・フィラーを 受け取ったんだ。



僕は、生きなきゃいけない。
受け入れてくれる人がいるから。

緑たなびく庭園に揺れる、桜色の長い髪。
僕を待つ為だけに佇む 君が優しく微笑んだ。


「 … 私を、手伝ってくれますか? 」


一度、手放したはずの指が、返上した騎士の印が
もう一度、差し出されていた。



君が、僕を 必要としてくれる。

君だけが、僕だけを。



必要だって言ってくれる、君の言葉が 必要だった。

それが、ルール違反でも。


「 Yes, Your Highness . 」



宝物を抱くように 白い指先を両手で包んだ。
僕のその白い手袋に 君が優しくくちづける。



「 … ! ユ   …  」



照れるヒマもなく、君が僕の首筋を そっと抱きしめていた。
穴だらけだったはずの 風穴はもうどこにもない。
摺り寄せる頬は なめらかで、だけど僕に触れるのを喜んでいることが判って
柔らかなその感触が 身体中に広がっていく。



「 スザク … あなたに お帰りって言えて、嬉しい  … ありがとう … 」



僕だって、って言いたかった。
だけど、今 僕は君に包まれるばかりで
それ以上に伝える言葉を 見つけることは出来なくて。

細い腰に回した腕を、そっとこちらへ引き寄せて
僕が 僕でいるために、必要なひとを抱き締めた。


うまく言えない “ Yes ” の気持ちは 耳元で繰り返すうちに 
互いの名前に形を変えて、静かに繋がりあっていた。




fin.


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すいませんね、今更&いつもの展開で;
いいの、好きなもんは好きなんだから!
自己満足で ごめんなさい・!だ!!!

ちくしょー、スザユフィ・大好きだ〜〜〜〜!!!
(何をいまさら 開き直って…;)



'07 Mar. 19 up




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