Stand in the Light.



会場の明かりが落とされると、一瞬 世界は闇に染まる。
頼りなく窓から差し込むのは 月と星と、街灯り。

誰からともなく、新年へのカウントダウンが始まる。
重なる声は増えるばかり、まるで勝利の雄叫びのようだ。


『 8 、7 、6 、5 … 』


新しい年の幕開けに、大きな花火が盛大に打ち上げられた。
色とりどりの光が、暗いホールに降り注ぐ。



「 皆、楽しんでいるか? また明日からはよろしく頼むぞ? 」



良く知っている訳ではないが、総督の声もどことなく華やいで聞こえる気がした。
親衛隊、政庁高官、仕官やその他の部隊と、笑顔が溢れている。
緊張にまみれているからこそ、大切な 一瞬の息抜き。
ささやかな平和、といったところか。

ナリタでの一戦からまだ間もないが、直後から多方面での改善が命じられ、
政庁にも、張り詰めた空気が漂っていた。
この宴が終われば、また 背筋を伸ばす日々が待っている。


もっともスザクにしてみれば、久しぶりの軍部である。
まるまる二日も眠り続けたあげく、静養( というよりは、謹慎 )を
言い渡されてしまい、ようやく顔を出したばかりだ。


「 えぇ〜? もうトンズラしても いいんじゃない? 乾杯は済んだんだしぃ。 」

「 ちょっ … ロイドさん、早すぎです! もう少し居なきゃダメですよ … ! 」


この場に参加しているとはいえ、特派の雰囲気は いつもとなんら変わらない。
マイペースな上司、それをいさめる補佐官。
見慣れた光景に 戻って来たことを実感する。


今日、ここにいられて良かった。

パイロット失格を宣言されても おかしくないはずだったのに。


一日も早く 戻りたい、と思っていた。
やらなければならないことが 沢山あった。

自分の奥底に沈めたはずの、忌まわしい記憶。
開いてしまった傷口は、すぐにはふさがるはずもないけど
逃げることは 出来なかった。


もう一度、ランスロットに 乗らなければ。

そして もう ひとつ …


「 イヤぁ、僕が早く帰りたいんじゃなくってさ、 スザクくんだって本調子じゃないんだろうしぃ。 」

「 えっ … スザクくん …?  」



思いが揺らぐ合間にも、夜空はにぎわっていた。

華やかな火花が白く、青く目の前で弾けている。
大きな炎が 幾度となく咲いては消える。
光と影が交差して、遠近感が麻痺していく。
胸の鼓動が 大きくなる。

これは、まるで、
あの時の。

ランスロットの中で 父さんが。



「 スザク …? 大丈夫ですか ?  」



柔らかい声が、幻を打ち砕いた。
藤色の瞳が、心配そうに覗き込んでいる。
そっと触れている小さな手を 思わず握り締めていた。


「 ユ、 …、 副総督 …  」


暗がりの中にあっても 彼女は陽の光のように 優しげにそこに立っていた。
うまく笑えたか、大丈夫だと答えられたかさえも、自信がなかった。

背後で彼女付きの仕官が 表情を曇らせている。
神聖ブリタニア帝国の皇女が、 一介の兵士を、しかもイレブンである自分を案じているなどと
どう考えても 許されることではない。
例え彼女自身は 露ほど 気にしていないとしても。


それでも、今 この手を離すつもりはなかった。
今 この手を離したら、息をすることさえも 出来なくなりそうで。

そんな思いが伝わったのか、細い指先が そっと握り返してくれる。


「 スザク、あの、私 人ごみに酔ってしまったようで … 静かな場所に連れて行ってもらえませんか?  」

「 えっ … あ、はい …  」


彼女の気遣いが嬉しかった。
付き添いの抗議をやんわりと退け、彼女が静かに歩き出した。
笑みを浮かべるロイドさん、あっけにとられているセシルさんを 目礼だけで通り過ぎる。


「 あの、副総督 …  」

「 スザク、私 屋上の庭園に行きたいです。 よろしくお願いしますね。  」


ただの兵士がそんな場所を知るはずもなく、実際は 彼女が連れて行ってくれた。
無機質の廊下の中でさえ、もうすぐですよ、と振り向く笑顔を見るたび 呼吸は穏やかになっていく。
どぉん、という大きな音は 最後の花火の合図だろうか。


最上階の突き当たり、大きな扉を潜り抜けると 吹き抜けの壁に囲まれた、小さな庭が待っていた。
白い砂の上、御影石の小道が伸びる先に こじんまりとした噴水がある。
清々しい水音が 夜の空気を洗い流しているようだ。
大きく深呼吸をすると 隣で微笑む気配がした。

今日は、元気になった自分を 見てもらうつもりだったのに。
照れ隠しに笑って見せると、優しく手を引かれてしまう。


「 ねぇ、スザク、あそこに … きゃっ !  」

「 ユフィ ! 」


暗がりに足元をとられて、躓く彼女が傾いていく。
引き摺られる手を とっさに踏みとどまり、思い切りこちらへ引き寄せた。


「 … ! 」


微かな花の香りがする。
ほの暗い光でも判る、桜色の髪が美しくなびいている。
気付いた時には、抱き締めていた。


「 … 大丈夫、ですか ?  」

「 はい、ありがとうございます … スザクも … 大丈夫ですか ? 」


やはり、心配されていたのだ。

自分が眠り続けている間に、幾度となく 見舞いに訪れていたことは
それとなく ロイドからも、セシルからも聞かされていた。
副総督ともなれば、分刻みでスケジュールが埋まっているだろうに。

彼女の心遣いを嬉しく思いながらも、どうしても スザクは気になることがあった。

もしかしたら、彼女は 出撃命令を下したことを 気に病んでいるのかもしれない。
だとしたら、それは間違いだ。
あくまで、出撃を志願したのは、自分だ。
最後までやり遂げられなかったのも、スザク自身であり、ユーフェミアが
心を痛めることなど、これっぽっちもないはずなのだ。

それなのに…。


「 大丈夫です。 … その、 申し訳ありませんでした …  」


いいえ、と呟く声は 消えそうなほどに小さかった。
すすりあげたように聞こえたのは 気のせいだろうか。
こつん、と胸元におでこをつけた 彼女の表情は 見えない。

こみ上げる思いに、細い腰にまわした手を もう少し自分の方へ寄せる。
胸の上に乗せられた柔らかな手を そっとなぞる。
白い手の甲に、いくつものかさぶたが出来ていることは 最初から気付いていた。

夢の中で もがきながら スザクが握り締めた傷。
溺れそうな悪夢を漂い、幾度となく掴んでいた 安心できる何か。
幻だと、思っていたけど。 


「 もう、あなたに心配をかけるようなことは、しません。 そのために 戻ってまいりました。  」


ずっと一人で、闘っているつもりだった。
自分さえ強い意志をもてば、本家から離れても 味方などいなくても
いつか理想に近付くはず、と。

そんな過去は傲慢だったと、今なら言える。
ロイドやセシル、メンテナンスのクルーや 学校の友人達、
そして 腕の中にすっぽり入ってしまうこの少女がいて、
はじめて 自分は ここに存在している。

強く 優しいこのひとを、二度と悲しませないためにも。
今度は。


「 僕が あなたを守ります。  」


ライトアップされた噴水が、鮮やかに 水の色を変えた。
吹き抜けの天井からは 控えめに星がまたたいている。

穏やかな光と、響きあう鼓動が 心地よくて目を閉じた。
耳元を 優しい風がなぞる。
それが 『 Yes 』 の返事であり、頬へのキスだと気付くまでは
さほど 時間は掛からなかった。


それはナナリーにされた時とは、どこか違って
そんなことをする彼女が 可愛らしくて、
そう思った途端、顔が熱くなるのが判った。


大丈夫じゃないかもしれない。


まだ閉じ込めたままの彼女の ぬくもりを胸に感じながら
ひとり、心で呟いてみる。
クチに出してしまったら、心配をかけてしまいそうで
火照る頬を、くちびるを、薄紅の髪にそっと埋めた。
  




fin.


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11話後・捏造;
スザユフィ きたー!!…と思ってたら、インターバルが長くて;
しょーがないんで、自家発電(コラ;)
これだと姉上、激怒してそうだなぁ、とか思いつつ;;;


'07 Jan. 3 up




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